昨夜のクラシック音楽館は、先週に引き続き、ヘルベルト・ブロムシュテット/N響の定期演奏会から、オネゲルとブラームスのプログラムでした。オネゲルの交響曲第3番は、第二次大戦終結時に作曲された祈りの音楽であり、ブラームスの4番は、宗教的な祈りとは直接的な関係のない絶対音楽ですが、終楽章の変奏は、J.S.バッハのカンタータ第150番の終曲に発想を得たジャコンヌになっています。このプログラムは、パンデミックで中止となっていたもので、ブロムシュテットは、2021年のザルツブルク音楽祭におけるウィーン・フィルとのコンサートで、同じプログラムを指揮しました。
N響 第2020回定期公演
オネゲル/交響曲 第3番「典礼風」
―――
ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98
NHK交響楽団
ヘルベルト・ブロムシュテット(Cond)
一曲目の《典礼風》は、三つの楽章から成り、各楽章にミサと詩編からとられた句、「怒りの日」(Dies irae )、「深き淵より」(De profundis clamavi )、「我らに平和を」(Dona nobis pacem )がそれぞれの表題になっています(ブロムシュテットは、異なる捉え方で解説していました。)。作曲者自身が以下のように語っていて、作曲当時に終決した第二次大戦を今日の世界情勢にそのまま置き換えることができます。
「私がこの曲に表そうとしたのは、もう何年も私たちを取り囲んでいる蛮行、愚行、苦悩、機械化、官僚主義の潮流を前にした現代人の反応なのです。周囲の盲目的な力にさらされる人間の孤独と彼を訪れる幸福感、平和への愛、宗教的な安堵感との間の戦いを、音楽によって表そうとしたのです。私の交響曲は言わば、3人の登場人物を持つ1篇の劇なのです。その3人とは、「不幸」、「幸福」、そして「人間」です。これは永遠の命題で、私はそれをもう一度繰り返したに過ぎません…」(on wikipedia)
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Appendix
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ブロムシュテット
N響 第2020回定期公演
オネゲル/交響曲 第3番「典礼風」
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ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98
NHK交響楽団
ヘルベルト・ブロムシュテット(Cond)
一曲目の《典礼風》は、三つの楽章から成り、各楽章にミサと詩編からとられた句、「怒りの日」(Dies irae )、「深き淵より」(De profundis clamavi )、「我らに平和を」(Dona nobis pacem )がそれぞれの表題になっています(ブロムシュテットは、異なる捉え方で解説していました。)。作曲者自身が以下のように語っていて、作曲当時に終決した第二次大戦を今日の世界情勢にそのまま置き換えることができます。
「私がこの曲に表そうとしたのは、もう何年も私たちを取り囲んでいる蛮行、愚行、苦悩、機械化、官僚主義の潮流を前にした現代人の反応なのです。周囲の盲目的な力にさらされる人間の孤独と彼を訪れる幸福感、平和への愛、宗教的な安堵感との間の戦いを、音楽によって表そうとしたのです。私の交響曲は言わば、3人の登場人物を持つ1篇の劇なのです。その3人とは、「不幸」、「幸福」、そして「人間」です。これは永遠の命題で、私はそれをもう一度繰り返したに過ぎません…」(on wikipedia)
第一楽章の危急を告げるかのようにザクザクと刻むリズム、金管の叫び、そして不穏な旋律が、神の怒りに触れたおののきをあらわすかのようです。リズムを刻む低弦の重厚さ、耳を劈く不協和音を奏でる金管の鋭利さに、N響の優れた機能性が活かされています。第二楽章は、第一楽章と正反対の穏やかな楽想で、平穏が描かれます。弦から木管、そして金管へと引き継がれるこの楽章でブロムシュテットが引き出す優しい音色は、平和への祈りです。第三楽章は、静かな行進曲風ではじまりますが、その静けさが帰っておぞましさを感じさせ、次第に重苦しさが増して音量を上げてゆくと、トゥッティによるおぞましいばかりのクライマックスを迎えます。そして、それが静まった後にコントラバスが奏でる哀歌とのコントラスト(デュナーミク)が素晴らしく、それが木管に引き継がれ、やがて静かに幕を閉じました。
ブラームスの4番は、第2楽章でフリギア旋法、終楽章にはシャコンヌを用いており、後期ロマン派の時代にあって、時代を逆行するかのような曲想ではあるものの、今日では、堅固な構築性に富む名曲の地位を確立しています。
第一楽章の冒頭を力まず騒がずに滑らかに入るところが、ブロムシュテットの老練な境地を表しています。が、しかし、テンポもフレージングは生き生きとしており、N響が奏でる音色には瑞々しさがあります。それでいて、再現部以降、コーダに至るまでの曲想では、ブラームスらしい堅固な構築美も損なっていません。ゆったりと静謐に始まる第二楽章は、しばらくの間静かにながれゆくだけですが、それは、次に訪れる鮮やかなクライマックスへの布石です。そして、その後の美しい旋律には、この上ない優しさ、温かみがにじみ出ています。第一主題の変奏風(再現部)が戻ってくると、力強くリズムを刻む二度目のクライマックスを迎えます。しかし、これもまた、次のクライマックスへの布石であり、壮麗で情感豊かに歌い上げるところには、ブロムシュテットの燃え滾る情熱が感じられます。一転して、第三楽章のスケルツォ風での弾むような勢いと鮮やかな音響には、これもまた、ブロムシュテットらしい若々しさに満ちています。そして終楽章では、シャコンヌ主題を荘厳に奏でると、その後、構築美豊かに変奏を重ねていきます。何度か書きましたが、怪我をした後のブロムシュテットは、以前より若干テンポが遅くなっているように思えますが、この楽章では、そのことが曲想に相応しい重厚で堅固な構築性を生み出しています。加えて、N響の機能性を活かした鋭利なアーティキュレーションが、一層その効果を高めており、97歳にして健在な強靭なる精神性を反映していました。
とは言うものの、この演奏は、ブラームスの引きずるような重厚さを際立たせているわけではなく、躍動する生命力は、カルロス・クライバー/ウィーン・フィルのアルバムに聴くことが出来る鮮やかな名演奏の系譜にあります。
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Appendix
Existenzielle Botschaften on BR Klassik
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ブロムシュテット
ザルツブルク音楽祭
2021
ヘルベルト・ブロムシュテット/ウィーン・フィルハーモニカー
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