アルベルト・ヒナステラ(Alberto Evaristo Ginastera,1916-1983年)は、ブエノスアイレス生まれのアルゼンチンを代表するクラシック音楽の作曲家で、晩年はヨーロッパに移り、ジュネーヴで没しました。その代表作のバレエ音楽《エスタンシア》の組曲が、先日の読響シンフォニックライブで放映されました。あまり演奏機会の多くない曲ですが、ラプラタ川流域に暮らす人々の民族音楽と、ストラヴィンスキーの原始主義的なリズムをミックスしたような音楽です。「エスタンシア」は、スペイン語で農園を意味するそうで、バレエの物語は都会の青年と農園の娘の恋愛物語ではありますが、バレエから4曲をピックアップした組曲は恋愛劇とは思えないノリの良い音楽です。打楽器に、ティンパニ、トライアングル、タンバリン、カスタネット、スネアドラム、テナー・ドラム、シンバル、バスドラム、タムタム、シロフォン等に加えて、ピアノまで導入される編成からも、おおよその曲調が想像できるでしょう。


バレエ組曲《エスタンシア》

1. 農園で働く人
2. 小麦の踊り
3. 大牧場の牛追い人
4. 終幕の踊り(マランボ)

読売日本交響楽団
原田慶太楼(cond)
(2019年6月26日@東京芸術劇場大ホール)


 今回読響を振るのは、17歳でアメリカにわたって指揮を始めたという原田慶太楼。まだ34歳で、2020年シーズンから、アメリカジョージア州サヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督に就任予定の売り出し中です。オペラの勉強をしたくて、ロリン・マゼールのアシスタントを志願したところ受け入れてもらい、マゼールにも学んだという稀有な日本人指揮者です。

 原田は、読響の色彩豊かな音色によって、この南米の民族色豊かな音楽を生き生きと描きだし、聴衆を現地に誘います。冒頭の「農園で働く人」は、農園の作業風景を表しているのですが、日本人が思い描くような長閑なものではなく、エキサイティングなリズムによって力強く活気溢れる様子が伝わってきます。一方、二曲目の「小麦の踊り」は、朝の農場の静かな情景を描く場面です。清廉とした静寂から、日の出の後、穏やかに沸き上がる大気の香りを感じさせるような広大な盛り上がりをみせた後に、再び静寂へと戻っていきます。原田は、この曲では指揮棒を使わずに、若い男女のロマンスをも想起させるような柔らかい音色を聴かせます。続く「大牧場の牛追い人」は、ガウチョが馬に乗って牛を追い立てる場面を描いており、ティンパニを中心とした打楽器とホルンなどの金管が大活躍し、勇壮な牛追いの様子が展開されます。原田は、前の曲から一転して、ここぞとばかりに壮絶な音響を繰り出して圧倒し、最終曲へと突入します。そして、最後の「終幕の踊り」では、アルゼンチンの民族音楽「マランボ」の踊りが活力あふれる勢いで始まり、シロフォンなども総動員され、ミニマルミュージック風の激しく高速なリズムが目くるめく展開されて締めくくります。
 原田のオーケストラコントロールは、激しいリズムでのトゥッティであっても、オーケストラの音像が乱れることなく濃密にまとまっており、それでいて自身がインタヴューで語っていたラテン的な「パッション」を充分に感じさせるものでした。番組後半に放映された、ファリャのバレエ音楽《恋は魔術師》でも、読響から濃厚なスペイン情趣を引き出していました。

 この演奏会の模様は、BS日テレで10月26日(土)朝7:00~8:00で放映されます。

読響シンフォニックライブ



◇ 参考: ヒナステラ: バレエ組曲《エスタンシア》 オロスコ=エストラーダ/フランクフルトRSO


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Aconcagua(アコンカグア) 〜ピアソラ、ファリャ、ヒナステラ、グァルニエリ
原田慶太楼/NHK交響楽団

ヒナステラ:ピアノ作品集
ミヒャエル・コルスティック (Pf)形式: CD
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